チキン南蛮の名店「おぐら」には何度も足を運んだことがある。
そのうちの3割、いや1割、なんなら一度だって良い、
なんでこの「哲心」の戸を開けなかったんだろう。
本当にもったいない人生を歩んできた、
おぐらに通った回数分の後悔が積み重なっていた。
宮崎に拠点を移した平野さんの、
ちらっと投稿してあった写真を見て存在を知った。
その一枚の写真から、静かに、慎ましやかに、
自身のことを徹底的に控え目にしているような、
だが力強く土に根をのばす野草のごとき雰囲気が伝わってきて、
ここで食べるそばは格別なんだろうと想像できた。
戸を開ける。時間にすると1秒にも満たない時間で店内を見渡し、
その1秒にも満たない時間のうちに、この店を好きになっていた。
すぐにそれは、一目惚れというものなのだろうと気が付いた。
しっかりと磨き上げられた光沢のあるカウンターは、
ゆったりと奥行きが取られたサイズ感がいい。
選ばれている調度品、店の人の感じ、
先にそばを食べていたお客さんの表情、全部がいい。
あれこれ置かれていない簡素な空間には、品が静かに揺れていた。
ちょうどカウンターが空いていて、その一番端っこに座らせてもらえた。
選んだのは、天ざる。
創作系のそばもあったが、初来店はやはりシンプルなものがよい気がして。
そばは信州のものを使っているそう。
自家製粉までされているんだろうか、そばの風味はとてもフレッシュだった。
口当たりがみずみずしい。
風味の強さが唇の上を滑り、やがてシュッと口に収まる。
つゆはカツオの香りがしっかりと鼻腔に届く。
燻されたカツオの、なんともいえないスモーキーなそそる香りだ。
少々甘めなのは醤油が九州のものだからか、
それともみりんやザラメによるものなのかまでは判断できないが、
優しく、やわらかく、つゆの味わいが伝わってくる。
天ぷらは薄衣、エビ2尾は頭までしっかり食べさせてくれた。
野菜はナス、カボチャ、大葉。
エビの満足度の高さが記憶に残る。
ちなみに、二口そばというお替りそばがあったので、かけそばをいただく。
そばのコシはざると比べてしなやかになり、
つゆの甘みがいっそう華やぎ、上品かつ優雅に。
ほどよい塩梅の甘さは優雅なのだと思えた。
たまたまバレンタインデーということで、
粋な2代目が初対面にも関わらず、いちご大福を出してくれた。
これがおいしい。本当においしい。
あんこは滑らか、口どけがよく、いちごは大きく、甘さは頃合い、
ちょっと調べたら、2代目は京都で和菓子を学んだそうな。
なるほど、それは納得。
次はちょっとそば前もいってみたいな。
おごちそうさまでした !!!