車を走らせ、目的地に近づくほどに不安になった。
本当にあるんだろうか・・・
それほどに道中は他に飲食店もなく、車窓の向こうにただただ自然だけが流れていった。
到着すると、その“イエ”の周りには、12月頭という冬ではあったが、緑が広がる。
その緑は野菜であり、このイエの主人であるシルビオさんと愛さん夫妻が大切に育てているイタリア野菜だ。
野菜たちに抱かれるこの場所は、肌に感じる寒さを忘れさせてくれた。
11月にオープンしたばかりの「APUTE C/FLEGO」 。
正式には「APUTE C CAFE + FLEGO food&farm」というそう。
イタリア野菜の産直販売所であり、その野菜を主役にしたイタリアンカフェ、それが「APUTE C CAFE」。
そして、「FLEGO food&farm」は夜営業のファーマーズレストランで2018年1月からスタートする(予定)。
ドアを開けると笑顔で迎え入れてくれた愛さん。
その後ろにはイタリアから取り寄せたというタイルが貼られた壁があり、脇には見事なエスプレッソマシンが見える。
向かって左手には新鮮なイタリア野菜が産直販売されていて、
棚を見るとドーナツなどのスイーツ、そして店で愛用しているというパスタや調味料の類が並ぶ。
食事スペースは向かって右手にあって、そちらへ通してもらうと、
いや、通してもらわなくても仕切りなんてないから見えるんだが、
金色の面持ちをしたピザ釜が奥に鎮座していた。
パスタを食べると決めてきたのに、その艶やかな光沢が強烈に誘うものだから、
あやうく気が移ろいそうになる。
見上げれば梁。天井を抜いた分だけ空間は広く、
その贅沢な開放感を最大限に満喫できる適切なテーブルとイスが配してあり、
とても気持ちがいい。
メニューはピザランチ、パスタランチ、スープランチなどがあり、
もちろん、麺を選ぶ。
パスタの中で目が止まったのは、おすすめと書かれたパプリカソースのリッチョリ(ネジ型のショートパスタ)。
パスタには前菜とサラダ、コーヒーが付いている、
ちなみに前菜に宗像牛が使われていたり、サラダが目一杯の量だったり、
皿が運ばれてくるたびに、思わず口元が緩む。
そして、リッチョリに陶酔する。
その形状の魅力を最大限に発揮し、ソースをぐるりと巻き込んだリッチョリの、
むっちりとした食感がまずもって最高で、そしてソースはフレッシュという一言で表現するのが申し訳ないくらいにしっとりと生命力を蓄えたような華やかさがあった。
普段口にしているパプリカでは到達しないであろう甘み。
そんな玉のような甘みの、ころりと舌に伝わる感覚が楽しく、やがて口の中を幸せが包む。
愛情と確かな経験によって野菜を自ら作る、だからこそ生まれたソース。
そんなことを思った。
きっと季節によっていろんな野菜がこれから巡り巡ってくるだろうから、
この店で四季を感じていけたら嬉しいな。
ドルチェにはパスティエーラを。
これはナポリでの定番ドルチェで、麦とリコッタチーズのタルトである。
食べてみると、予想しない味で大いに驚かされた。
麦とはパスタに使うそれであり、実に大地っぽさがある。
麺類においては、噛みしめるほどに小麦の風味が広がるというような表現をしたことがあるが、
果たしてスイーツに対して、噛みしめるほどに・・・という表現をしたことがこれまであっただろうか。
そしてその風味を引き立たせる柑橘の仕事。
さらっと控えめな甘さのソースもいい。これは無敵だ。
コーヒーまでしっかり美味しく、お土産に買ったドーナツもまた美味。
地元にこんな素敵な場所ができるなんて。
おごちそうさまでした !!!