愛してやまない店が閉店したと聞いて、とても胸を痛めた。
店の名前は「サンキュー」。
店の老朽化のためだと知り、痛みは和らいだものの、
ぽっかりと心に穴が開いた。
昨年の話だ。
僕はサンキューのことを悪く言う人に会ったことがない。
最高なんてものはないし、
それは人それぞれの趣味、嗜好によって変わるものだから、
そんな大それたことを言うつもりはないけど、
僕にとって限りなくそれに近かった。
味だけで言うなら、他にも素晴らしい店はある。
ただ、店の雰囲気、佇まい、働いている人の表情、息遣い、
食べている人の表情などなど、
僕がお店の良し悪しを判断するたくさんの要素の中で、
特に大切にしていてほしいと願っているものの多くを、
サンキューは備えていたように思う。
長くなったけど、ここからが本編です。
そんなサンキューが復活すると聞いて、嬉しくてしかたなかった。
屋号は新たに「中華めし 下釜(しもがま)」となり、
1月20日、西新で再スタートを切りました。
親父さんとおかみさんはご隠居されたようで、
息子さんのお店となっています。
覚えていてくださったようで、気さくに話しかけてくださいました。
嬉しいなあ、こういうやりとり。
実はその場では伝えなかったんだけど、
僕は少々、がっかりしたんです。
完全なる僕のエゴですが、つまり“あの”サンキューの雰囲気が好きだった。
でも、新規オープンのお店にそれを求めること自体が無理な話な訳で。
コンクリート打ちっ放しの壁、間接照明の柔らかい光、
洗練されたすがすがしい空気が流れる素敵な店内を見渡しながら、
少しセンチメンタルになっていたんです。
ところが、店を出る頃には、ぜーんぶすっきりしていた。
店主と話し、店を作るにあたっての思いを、
これからのビジョンを聞いているうちに、
僕が気にしていたことの全てが、
本当にどーでも良いことだったんだと思えてきて、
そうしているうちに一つのことに気がついたんです。
「この店、サンキューと同じような造りをしているんだ」って。
オープンキッチンを囲むようにカウンター席が設けてあり、
奥にちょっとしたテーブルがある。
カウンター越しに先代やそのお母さんと他愛のないことを話して、
息子さんが茶々を入れる、あの光景が蘇ってきました。
サンキューは、最初からサンキューじゃなかったんだ。
時間が経って、みんなの思いが詰まって、
あの雰囲気になったんだって思えてきたら、
なんだか一人でグッときたんです。
まだオープン直後ということで、
メニューはかなり絞ってあります。
訪れたランチタイムにはちゃんぽん、皿うどん、レタスチャーハンなど5品。
ちゃんぽんをオーダーすると、なんと!
写真のようなグツグツで出てきた!
やり方は息子さん流、ただ、味はあの頃のままです。
先代の味を受け継ぎ、旨味調味料に頼らない、
素材による天然の旨味が丁寧に組み立てられています。
たぎらせるため、スープの濃度には細心の注意を払っているそうで、
2つのスープをブレンドしているとのこと。
もちろん、鶏ガラ100%。余計なものは使わない。
見せ方は今風かもしれませんが、その本質は変わっていません。
アッツアツのスープは飲んでいると最初の打ち出しは弱めながら、
後からコク、そして塩気が追ってくる。
次から次に美味いんだから、あーー、たまらない。惚れなおした!
ちなみに辛味噌が添えられますので、
後からピリ辛にしても味わえます。これもまた秀逸です。
あの神がかり的な火入れによるチャーハンも、
汁気が麺に染み込んだ“ジューシー”な皿うどんも、
その進化が楽しみ。
ここは、徹底して通います!
おごちそうさまでした !!!