名古屋に住んでいる人なら当たり前の常識なんだろうが、
初めて、味噌煮込みうどんの「山本屋」が2つ存在すると聞いたときは大変驚いた。
「山本屋総本家」は大正14年の創業で、名古屋、そして東京に店を展開している。
そしてこれから紹介する「山本屋本店」は明治40年に創業し、
名古屋を中心に、愛知県内と岐阜、三重という近隣に直営店のみ展開。
地元の名古屋でもどっちが好きか、という話はよくあるようで、
それこそ、人の好みも十人十色ゆえに、いずれにも根強いファンがいる。
なんで山本屋本店のほうに惹かれたのかというと、
やはりぼくが麺好きであり、味噌煮込みうどんをとことん楽しみたいと思ったから。
聞けば山本屋本店は味噌煮込みうどんを主体に、
メニューにバリエーションがない。
一方で、総本家のほうはアレンジやそのほかの名古屋飯も揃っている。
この日の気分が前者だった、ということだ。
それにしても贅沢な二択。いずれも老舗で、
地域に愛されているお店なのだから、
食べる方としてはこんなに嬉しいことはない。
ランチタイムに訪れると昼用のメニューが渡された。
味噌煮込みうどんを好みで選ぶと、
漬物、白ご飯が付いてくる。
ちなみに、どちらも食べ放題という気前の良さ。
そして漬物、白ご飯だけでも大変満足できる質で、
漬物は季節で内容が変わるようで、
粒がしっかり立った白米が進む、進む。
名古屋コーチン入りなどにも後ろ髪を引かれたが、
味噌煮込みうどんはスタンダードなものを注文した。
フタを開けると、思いの外、上品な味噌の香りが鼻腔を抜ける。
のぼり立つ湯気によってその瞬間はうっすらとしか確認できなかったが、
結構、色目としては濃い。
完全なる褐色で透明感は皆無で、
だからこそ、もっとワイルドで荒削りなものを勝手に想像したが、
角が取れたような、そんなころりとした香り。
たまらずレンゲで啜ると、鼻は間違っていなかった。
味の決め手となる味噌は、公式サイトによれば、
3年間という時間を掛けて醸造した地元特産の赤味噌、白味噌。
これらを合わせたものにさらにザラメをブレンドし、
艶が出るまで大釜で炊き上げるそう。
味噌を引き立てる甘さ、そしてコクを閉じ込める技術によって、
この豊かな味わいは生まれている。
そして麺はかなりゴリゴリだ。
伝統的な手打の手法で製造されているようで、
麺を持ち上げれば、うねった形を保ったまま、
重力に逆らう形で箸にぶら下がっている。
噛み締めれば、生っぽさが少し残っていることに気がつく。
福岡であれば粉落とし、か。
もちろんおおよそは火が入っているものの、
麺を試しに噛み切って断面を見ると、
茹で具合の加減によって、白さがところどころに残る。
この麺が土鍋によってアッツアツな汁によって、
徐々に火が入っていき、食べながら完成していくようなイメージだった。
初めゴリゴリ、後シコシコ。
豪快な麺へのアプローチに、もはやヘロヘロだ。
最初から最後まで驚きの連続。
山本屋本店、十二分に堪能した。
おごちそうさまでした !!。