厨房の中には、ご主人が一人。
閉店間際だったこともあり、
カウンター席がガランと空いていた。
テーブルでは親子と思われる男性2人が、
スカッとした音を響かせながら、
ラーメンを食べていた。
昭和のラーメン屋さんといった、
ざっくばらんとした雰囲気。
麺を啜る音にテレビの音が時折加わる。
それがなんだかとても心地よかった。
訪れたのは、老舗「香蘭」さん。
佐伯ラーメンの代表格だ。
ラーメンとご飯を注文してお父さんの動向を
のんびりと目で追う。
丼に注いだスープは褐色気味の色をしており、
とても濃厚そうだ。
それから箸を使うかのように平ザルを操り、
ソフトタッチに麺の湯を切る。
音はほとんど出らず、
中太の麺がやさしく3度、宙に舞った。
それから、もやしを盛り付け、
ネギ、チャーシューをのせ、
ゴマ、ニンニクパウダー、
コショウも振りかけたから、
「なるほどスープは結構少なめなのか」
と思っていたら驚愕した。
コショウまでかけたのに、
その上に仕上げの脂をちゃっちゃっと振りかけるではないか。
かける脂の飛沫によって、
コショウやゴマといった類いが飛び散る。
丼の周りにそれらがベタッと張り付き、
みるみるうちに否が応でも
食欲をそそるビジュアルへと変貌を遂げた。
褐色気味のスープは見た目の印象そのままの高濃度だ。
質感こそサラッとしているが、
かぎりなくドロリに近い感じ。
ゴツい中太の麺が合わさった一杯はまさに猥雑だな。
ラーメンにちなんだ欲を一つにまとめ、
塊にしたかのよう。
ニンニクのパンチ、コショウの暴力的な風味、
むっちりした麺、とろりとしたチャーシュー、醤油の塩気、
それらすべてを濃度の高いスープがどっしりと押しつぶす。
その日、僕はとにかく腹が減っていた。
そんな時に相応しい、格別な一杯で、
飯がとにかく合うもんだから、
割と盛りのよかった白飯も一気に平らげた。
ああ、すっかり満たされた。
どんな嫌なことがあったとしても、
その日がとても素晴らしかったとさえ思わせそうな、
オールオッケーなラーメン。
おごちそうさまでした !!!