なぜ「不動庵」なんですか?という質問に、店主は快く答えてくれた。
お店の名前は「うどん 不動庵」。
どうしてそうなったのか、気になったのだ。
店主の父が、とある神社に祀られている不動明王の面倒を見る
(という言い方が正しいのか分からないが)ことになり、
それが今、店主に受け継がれたのだという。
そんなこともあり、
店の名前に守護神ともいうべきお不動さまを入れることにしたそうだ。
ちなみに、毎月28日がお不動さんのご縁日であり、
店主は2と8という数字にとても思い入れがあるのだという。
そんな理由もあって、この店が開業したのは、2月8日。
「本当は昨年(平成28年)にオープンしたかったんだけどね」
店主はそう言って笑う。
おおらかで、気持ちのいい笑顔だった。
食事を終えたぼくは、図らずもこの場所と店主について深く知れ、
なんだかとても満たされていた。
オープンしたばかりということもあって、現在は営業時間が11時〜15時。
売り切れれば終了する。
この日は寒いこともあってかけうどんの類が売り切れ、
ぶっかけだったら残っているということでそれを注文した。
待っている間に「店の中でもご覧になりますか」と声を掛けていただいたので、
座っていたカウンターから座敷に移動し、見せてもらった。
琉球畳の落ち着いたトーン、縁側のほうからふわりと自然光が入り、
座ると空気がふしゅーと抜けそうな座布団が品良く並ぶ。
テーブルは、カウンターやレジ周りと同じ素材で、
「実は一本の木からとって作ったものなんですよ」
と教えてもらって、とても感心した。
カウンターの目の前のアクセントウォールには、
ランダムに木の、生々しい生命力を感じるものが縦に敷き詰められていて、
日差しが強くなり側面からの光が強くなると陰影が濃くなり、
ぼーっと眺めていて飽きない。
カウンターの椅子にはうどんのエッジをイメージしたように、
ちょっとしたくぼみがあり、とても座り心地がよかった。
店主は定年を機に讃岐でうどん作りを学び、
こうして店を構えることになったのだという。
周りは民家、そしてぶどう畑や柿畑が広がるのどかなロケーション。
鳥の声が聞こえてきて、日常だけど、日常じゃない場所にいるように思えた。
うどんは茹でたてを出す。だから15分くらいはかかる。
その時間は、全然気にならなかった。
急いで食べて、すぐに出かける、という利用は向かないと思うし、
何より、ここで過ごす時間という魅力そのものが減ってしまうのでもったいない。
きれいに盛り付けられたぶっかけうどん。
讃岐ならではのコシが見るからに想像できる麺は、
やや黄色みがある。
「黒い器に映えますよね。そういう小麦粉を選んだんですよ」。
店主はよくぞそこに気がついてくれたという会心の笑み。
うどんが好きなんだな。ぼくもそうだから、それがよくわかる。
食べるとシコシコ、小麦の風味もほどよく強く、
つゆの、やや甘めの感じが麺に合っていた。
春の頃には庭がもっと華やぐだろうな。
季節を感じに、また立ち寄りたい。
おごちそうさまでした !!!