とある取材で、第153回直木三十五賞を受賞された東山彰良さんに
この店を教えていただいた。
電話でのインタビューを終え、
ここは、ちゃんと食べたいという気持ちが強くわき起こった。
店主はここ日本において、
四川料理の父と称される陳健民さんと、そのご子息・健一さんに師事し、
長らく名店「四川飯店」の屋台骨を支えたという人物。
そうなると食べたいのは陳さんが産み出した汁ありだが、
本来、現地で親しまれてきた汁なし担々麺を食べた。
気になってしょうがなかった、「品がある」という東山さんの一言が。
四川料理は基本的に辛さ、痺れが効いている。
その辛さとはラー油であり、痺れとは花椒だ。
これらのインパクトを司る2大巨頭を従えているにもかかわらず、
品があるとは夢のようじゃないか。
そして直感は当たる。やはり抜群に好みだった。
店主はバランスだと言う。
つまり、自家製の芝麻醤、そして辣油、花椒、どれかが突出してもいけない。
シンプルな料理だからこそ、難しいと言う。
よくまぜてね、という言葉に従い、まぜる、まぜる。
目を閉じてみると、そののぼりたつ香りに注意が向く。
香ばしくって、なんだか華やかさがあるようにも思えた。
おもむろに箸で持ち上げ、食べてみると、ああこれかと破顔一笑。
ゴマのコクがこっくりと、ラー油はすっとキレがあり、
花椒はこの皿の中では脇役に徹する存在だった。
店名にもなっている「麻婆」。
麻婆豆腐って、誰もが一度くらいは食べたことがある、
中華料理におけるスタンダード。
「誰でも知っている料理だったら、違いが分かるからね」。
静かだけど、力のある店主の言葉で、
次に来る時のオーダーは決まった。
ちなみに、ランチがお得過ぎて目眩がする。
汁なし担々麺or担々麺に中華丼がついて850円也。
おごちそうさまでした !!!